勢いだけですべて可能だと、そう信じていたときが終わり、ふと立ち止まる瞬間が訪れる。いままで自分は何をしてきたのか、そしてこの先どうなるのか。そんな、誰もが体験するだろう不安を『Playback』の主人公ハジも、40歳を手前にして抱えている。そんなときに彼は、自らが生きてきた道を辿り直すことで、かつての自分や仲間たち、故郷の風景を改めて発見するだろう。後悔するためではなく、自らの「再生」を始めるために。
監督の三宅唱は、本作が劇場公開デビュー作となる28歳の俊英。加瀬亮など、映画をこよなく愛する俳優たちをうならせた処女長編『やくたたず』(10)をみた村上淳が、監督にラブコールを送り、この企画が実現した。監督はその返答として、村上の実人生と重なり合うような、俳優を職業とする主人公を作り出した。自然体ながら、まるで初めて出会うような村上淳がここにいる。また渋川清彦、三浦誠己、河井青葉、渡辺真起子、菅田俊ら、エッジの利いた実力派俳優たちが脇を固めるほか、主題歌を提供した大橋トリオの存在も忘れてはならない。
三宅唱という新しき才能を発見する興奮。そしてその才能と、日本映画を代表する俳優たち、美しいメロディとの幸福な邂逅を、ぜひとも劇場で感じてほしい。
懐かしくも新しい、不思議な感覚を与える洗練されたモノクローム映像。そこに焼き付けられた俳優たちの豊かで多彩な表情。ロケ地となった震災後の茨城県水戸市の風景が感じさせる、切実さ。『Playback』は通常の商業映画の枠を超えて、スタッフ、俳優、多くの協力者たちが一丸となり、映画と人生にとっていまこそ必要な「何か」を探るべく全力で勝負した作品だ。昨年の『東京公園』(青山真治監督)、『サウダーヂ』(富田克也監督)に続いて、2012年度ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門に出品され、「どうやらここ数年再び息吹を取り戻した若手日本映画からの良い報せであり、見事なサプライズ」とも言わしめた。
まさにこれは、日本映画のオルタナティヴな可能性を体現する一作なのだ。
仕事の行き詰まりや妻との別居など、40歳を手前に人生の分岐点に立たされた映画俳優ハジ。だがすべてが彼にとっては、まるで他人事のようだ。彼を良く知る映画プロデューサーは再起のチャンスを与えようとするが、まともに取り合おうともしない。そんなハジが旧友に誘われ、久しぶりに故郷を訪れる道中、ある出来事が起こる。居眠りをして目覚めると、なんと大人の姿のまま制服を着て、高校時代に戻っているのだった……。
現在と過去が交錯し、反復されるその世界で、果たしてハジは再び自分の人生を取り戻せるのだろうか。